ドキュメンタリーを見て思ったこと

NHK-BSの世界のドキュメンタリー「隠蔽(いんぺい)された真実 〜捕虜虐待に加担した兵士たち〜」を見た。


これはアフガンに派遣されたデンマーク軍がアメリカの進める「テロとの戦い」への協力において、米軍の捕虜虐待の事実を知りながらデンマーク軍の捕獲した捕虜(無実の民間人を含む)を引き渡したのではないかと言う疑惑を追及したドキュメンタリーだ。


アブグレイブ収容所の虐待が注目されたころ、当時のラムズフェルド国防長官は必ずしもジュネーブ条約を守ることを明言せず「特殊な扱いが必要」という立場をとり、そのことが捕虜の(もしくは無実の民間人)の虐待を助長し多くのイラク人の反感を煽った。


そのような状況はアフガンでも同様であったようだ。


この疑惑を追及するドキュメンタリーが作られた背景には、デンマーク軍が自国の軍隊をアフガンに派遣するに当たって「ジュネーブ条約」を遵守すること、そしてそのことを米軍とも確認しあっていたという前提がある。


取材のきっかけは、そこに派遣された「通訳」がそこで行われた虐待を告発したこと、そして、その告発は信用性が無いとして却下されてしまったことにあった。
そのときの調査報告書は機密として公開されなかった。


現地の指揮官などは、もしそのようなことがあればうわさの一つも出るだろうがそのようなものは一切無いとして事実そのものを否定する。
否定するだけでなくその証言をした「通訳」自身を病人扱いし、その信用を貶めるような証言をする。
軍も政府も「そのような事実は無い」を繰り返すだけ。


そして現地の取材の過程で当時の日付付の写真、そこに写っている兵士の証言、アメリカ軍兵士(憲兵)の証言、そして実際にその写真が取られたときに拘束されたアフガニスタン人(結局無実であることが判明し釈放された)の証言を得た。


その証言を持って、先の現地指揮官に確認すると「引き渡した事実」を認め、さらにどのように捕虜を引き渡したかを証言するのだが、インタビュアーが「当局はその事実も認めていなかったはずだ。」と畳み掛けたときの彼の返事が振るっている。
「当局が認めていないのならそういうことだ。」


結局、政府も捕虜引渡しの事実は認めるのだが、引渡しの際に記されたはずの記録は破棄されたと言って、その詳細は闇の中


と言うような内容だ。



このドキュメンタリーを見ながら、やはりアフガニスタンへの自衛隊の米軍支援のことを考えてしまう。
どうしても「場」の状況にひきづられてしまうだろうと言うことだ。
イラクに派遣された元自衛隊隊長の議員の発言などは自衛隊もまた彼らと同様に場の心理に支配されていたことを物語っている。
そして、そのような場では活動の内容や、矛盾という現実を隠蔽(言葉が悪ければ秘匿)しようとする力が働くことも。




戦場では、そのような俘虜虐待を引き起こすような状況を生み、それが良いとは思わなくとも当然のようにそれがまかり通ってしまう。
そして、機密と称してこれらは隠蔽されてしまう。
その多くは表に出ず、いや、出せない故に事実の断片があらわになってもシラを切るしかなくなってしまう。


そのような「場」に派遣された「ジュネーブ条約の遵守」を前提としたデンマーク軍もまた当然のようにアメリカ軍のそのような風紀に巻き込まれていってしまったのだ。


もし、これが第二次大戦でのBC級裁判に当てはめたらどのような判決を受けるだろう。
もちろん、これを正当化したいのではない。
戦場と言うものが常に現場の人間(兵士)にそのような罪を当然と思わせてしまう環境をつくりだしてしまうということだ。


どんなに規律の厳しい軍隊であっても、人道を標榜する軍隊であっても、規律に厳しいが故に、そして(味方の)人道を標榜するが故にその戦場に生まれる「矛盾」としての「非道」を許してしまい、その事実を隠蔽しようとする力が働いてしまうのである。
そして、そのことがさらにそのような扱いを受けた者の尊厳を冒し、心を離反させ、憎しみを再生産してしまう。




国連の監視活動が悲劇を目の前にして何もできなかったルワンダの実情を見て「何で助けないんだ!!」と思うのが当然である一方で、軍事力を行使してその争いの当事者になっていくイラクアフガニスタンの現状を「ひどい」と思う視点も同時に持たなくてはならないだろう。


でも、「力と力」の場の発生を未然に防ぐこと、「力と力」の観念の持つ魅力を拒否すること
きっとそのような事でしか悲劇は減らすことはできないのではなかろうか?


【追記】
それよりも何よりも、紛争地域の武器を調べ、その武器を市場に流した資本に紛争解決の人的・資金的義務を負わせてほしいものだ。
もし、それができないのなら「立派な正義」をかざす前に、武器の輸出を許可しているstatesにこそその責務を負ってほしいものだ。
百歩譲って、紛争に至っていない地域への武器輸出までは咎めないし、結果責任で良いから。
紛争で儲ける者がいなければ、どれだけ世界の紛争が減ることだろう。